夫婦ですが何か?
そして自分の顔を彼の背中にピトリ寄せるとすでに当たり前に馴染んだぬくもりと匂いに安堵し、そしてその事に小さく驚く。
当たり前の匂いになってるんだな。
「・・・なんかなぁ・・・、俺の奥様はなかなか攻略不可能だなぁ」
困った様な、でも嬉しさと照れを交える声で弾かれた言葉と、私に指先を包むように絡む手。
見えないから少しだけ口の端を上げると口付ける様な仕草で彼の背中に唇を押し当てる。
少しだけ息を飲むのを感じた。
そしてゆっくりと私の組んでいた指先を解き、のそりとこちらに体を向け横たわったままグリーンアイで私を見つめる。
「・・・・・千麻ちゃん・・・」
「・・・はい、」
「・・・千麻」
「はい、」
「名前呼んで?」
その響きを求めるように私の唇に触れてくる指先に少しゾクリと背中に感じる。
やはり・・・私の彼への印象がだいぶ変化しつつある。
「・・・・茜?」
「何で疑問形だよ」
「じゃあ、・・・茜」
「・・・・ん、千麻・・・」
「はい、」
「・・・・・キスするね」
なんだそれ。
『キスしていい?』って疑問形じゃないのですか?
そんな事を思った時には私の反論なんて待たずに唇をしっかり密着させる彼に、不満げな反応を返すでもなく目蓋を閉じた。
しっとりと密着し啄むキス。
あの日以来こうしたキス位ならかわす頻度は増えたと思う。
一体何の意味あってのそれになるのか。
夫婦と名のつく関係でも恋という関係をすっとばして一緒にいる2人。
キスを交わすのもなんだか不思議でならないというのに、こうして交わしてしまえば気持ちよくて抱いていた疑問を後回しにする。
キス・・・上手い。
お互いに柔らかく啄んで貪って、スルリと彼の舌の侵入を許した瞬間。
あっ、過去にもあった。
こうして理由や言い訳を後回しにただお互いに同じ目的の為に同調し肌を重ねた時間。
そうして再浮上した姿にまた舌打ちしそうになるのを堪え、ゆっくり目蓋を薄く開けるとキスの相手を確認する。
ああ、愛らしいダーリン。
捉えた彼の姿は当たり前だというのに安心した。
今こうして時間を共有しているのは彼なのだ。
綺麗なグリーンアイの我儘で寂しがりの暴君。
その姿を確認するように見つめすぐにまた目蓋を閉じるとキスに集中した。
『人ってさ、その相手を思い出した時に相手も自分を思い出してるんだよな。だから・・・、
俺を思い出したら絶対に俺とおまえは再会するよ』
ああ、忌々しく呪いの言葉。
恐ろしいのはその言葉に幾度か当てはまる過去があるから。