夫婦ですが何か?
言葉を失って自分好みの姿に変貌した奥さんに見惚れる。
結婚式での大人びた雰囲気のロングヘアもよかったけれど、この姿の方が更に自分の心をくすぐって動揺させる。
そして・・・・・自分の物であるパーカーを纏ってフードを深く被る姿。
コレ・・・・死ぬほど可愛くね?
あれ?
俺安い?安いのか?
馬鹿みたいにドキドキと無言でその姿を見つめていれば、無表情で片手をあげた彼女がその掌をちょいちょいと動かしジェスチャーしてきて。
多分かがめという様な指示なのだと判断すると疑問のまま彼女の視線の高さまでかがんでみた。
次の瞬間の衝撃。
おもむろに俺の被っていたパーカーの両端を掴みグッとフードごと引き寄せると、驚く間もなく触れる彼女の唇。
でも、もどかしい。
空気に触れる唇が虚しい。
そして異様に熱い・・・唇の端。
心臓が・・・・痛いかもしれない。
そんな俺の心情なんて理解していないらしい唇がそっと離れ、驚愕に染まっているであろう俺の顔を至近距離で愛らしい彼女がじっと見つめた。
「千麻・・・ちゃん?」
どういう事?
そんな含みで名前を呼べば、それは意味が通じたらしく表情を変えるでもない彼女が答えを告げる。
「これは・・・努力賞でしょうか・・・」
「な、何?努力・・・」
「努力賞。よって・・・契約期間が延びたわけではありませんので」
念を押す様に言われた言葉。
努力賞と言うのは多分今日のゲームに対してのそれだとようやく答えを得て「ああ、」と納得の声を響かせてしまった。
つまり、ときめきはなかったけれど、それなりに行動は評価すると言いたくて俺の望んだ姿になってくれたわけか。
そして持ってきたらしい2本の傘。
それに視線を走らせてから彼女に視線を戻し、相変わらずの無表情と視線を絡めると口の端を上げた。
千麻ちゃんは狡いな。
いつだって冷静で的確に俺の要望に応えてくるんだから。
「いいや・・・、」
「何がですか?」
「ん?契約期間が延びてなくても。・・・・千麻ちゃんから初めてキスされたし・・・・」
「大げさですね。キスと言っても口の端なんて挨拶の様な物でしょう?」
呆れた。
そんな風に息を吐き、視線を外した彼女が持ってきた傘を俺に差し出す。
それを受け取ると持っていた傘をパッと広げ先に雨の中に歩き出した彼女。
ただ・・・それだけの瞬間。
なのに酷く心が急いて・・・。
受け取った傘をそのまま握り一瞬雨を一気に浴びた後に驚く彼女と視線が絡んだ。