夫婦ですが何か?
入りきらない肩が濡れる。
それでも無理矢理自分を収めようとは思わず、ただ目の前の小さな彼女が濡れない様に意識を走らせ入りこんだ傘をしっかり支えた。
そして数秒の不動。
「・・・・何をしておられるのですか?」
「・・・・いや、雨降ってるから」
「その手に持ってらっしゃるのは?」
「この傘嫌い・・・」
「じゃあ、私がそちらを使いましょうか?」
呆れ眼で差し出してきた手に傘を乗せるでもなく自分の指先を絡めて乗せれば『何をしているのか?』と言いたげな冷めた眼差しを向けられた。
本当・・・俺、何してるんだろう。
でも・・・千麻ちゃんが悪いんじゃん。
「・・・・可愛いね」
何の含みも策も無く、ただ純粋に感想を零してしまった。
だけど彼女には上手く伝わらなかったらしく、『はいはい』とあしらわれて視線を外された。
本気で・・・言ってるのに。
それでも外されたのは視線だけで絡めた手はそのまま握り返された事に小さく歓喜。
そして、濡れている俺の肩に気がついた彼女が少し身を寄せ隣に並ぶ。
「さ・・・、帰りますか?・・・ダーリン?」
ああ、惚れそう。
安い・・・安いんだよ俺。
確かにまだ未練もあるくせに、こんな風に簡単に千麻ちゃんの魅力に翻弄されちゃうくらい。
ああ、これ・・・。
本当に1年じゃ手放せない予感。
「・・っ・・・子供作っちゃおっか?」
「・・・・・・何いきなりセクハラ発言ですか?」
「いや、今なら最高の遺伝子が残せそうだと・・・」
「今だと最悪的にダメな要素強い子供になりそうですね」
「今夜こそ初夜のリベンジに挑みませんか?」
「初夜って言うのは【初】って付く一番最初の時の事で2回目のそれはもうリベンジも何もないと思いますが」
「もう・・・、黙って俺に愛されない?」
「もう、黙って静かに歩いてください」
ああ、敵わない。
彼女だけはそう簡単に俺に言い負かされない。
対等に並んで言い返して、俺もそれを知っているから安心して全てを預ける。
ねぇ、それって・・・なかなか本当の愛し合った夫婦でも難しいことだと思わない?
千麻ちゃん。
「千麻ちゃん、俺達って夫婦でしょ~」
「そうですよ。夫婦ですが何か?」
彼女と俺の契約。
一年かけて一生にしようじゃない。