夫婦ですが何か?





「すみません・・・・・・、もう、限界です・・・」


『・・・・・』


「・・・・でも、・・・・・顔を見ずに去ることにならなくてよかった」


『・・・・・』



決してこの距離ある接触に憤りはないと告げしっかりとその姿を見つめる。


勿論、不快感はじわりじわりとこみ上げて、今にも背けたくなる視線をしっかりと彼に向ける。


無言でまっすぐ私を見下ろす彼は何を考えているのか。


それでも最後くらいは、と、口の端を上げて見せる。




愛してた。


こんな契約の最後になってしまったけれど。


1年も継続できなかったそれだけど、


私は・・・・この契約に・・・、




『千麻ちゃんを愛してるよ・・・・・』




耳に響いた声に、


胸がざわめいた。


そして、驚く。


一瞬にしてその時は不快感が引いて、周りの雑踏の音が聞こえなくなるほど。


全ての感覚皆無の不動に、入り込む彼の声の響き。




『いつだって・・・、仕事も、奥さんとしても完璧だった。

俺には勿体なさ過ぎて、

必死に見え張って、立ち並ぼうと努力して・・・、

結局・・・・・・・弟子のままでごめん』


「・・・・」


『千麻ちゃんが望んだ奇跡を叶える・・・そんな魔法使いじゃなくてごめん・・・・』


「・・・・」


『でも・・・・・・ごめん・・・、まだ・・・苦しい程愛してる・・・・・』



今にも崩れ落ちそうな声と表情。


痛いほどの心からの懺悔。


その言葉に反応して・・・・一瞬だけ掻き消された不快感。


でも・・・、


すぐに浮上。


一瞬の緩和剤を投入されたような時間。


そして悲痛な表情で私を見つめる彼をまっすぐ見上げて返す。




「・・・・・・・・・・許さない」


『・・・・・・』




響かせた言葉に彼の表情がみるみる消沈していくのが分かる。


だって、


だって仕方ないじゃないですか。


愛していても、


愛されていると感じても、


この体がそれを許してくれない。


まだ私の全てがあなたを許していない。



「・・・・・・・・・許したくても・・・・・許し方が分からないの」



そう言葉を付け足せば、綺麗なグリーンアイが少し色を変えて私を見つめた。


何かを確かめるように、探るように。


私にその答えを探しているんだろうか。



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