夫婦ですが何か?
二度目の目覚めを感じた時には一度目より肌に優しい部屋の空気。
ぼんやりと目に光を取り込みまくらに顔を半分埋めて思考の起動に集中していく。
今は何時だろう?
あまりに強すぎる呪いの効果と妊婦特有の眠気の合わせ技。
見事呑まれて目覚めれば昼には達しなくともなかなかな時間だと判断する。
堕落だなぁ。
そう思いつつも嘆くわけでなく、自分の僅かな膨らみあるお腹を撫でて布団のぬくもり効果で目蓋を閉じた。
そんなタイミング。
聴覚の覚醒。
追って嗅覚が働けば、パッと開いた目を瞬かせながら現状予測。
ああ、そうか。
そうだった。
耳に流れこむ定番で軽くうんざりする浮かれた旋律に眉根を寄せて息をはく。
この自分とは温度差ある感覚は一生歩み寄れないのかもしれない。と、軽く諦め感じながら体を起こした。
そして働いた嗅覚にはどう反応すべきか小さく苦笑いで「あ〜」っと、乾いた声を響かせて。
複雑な心中でようやくベッドから抜けるとクローゼットに向かった。
まだ小さく聞こえる歌声は陽気。
なかなか受け入れられない選曲の数々に眉根を寄せながら服を纏って、髪の毛をクリップでまとめ上げながら歩きだし。
近づく程に強まる匂いに若干の不安。
それでも小さく意を決するとリビングの扉をくぐって中に入り、すぐ横手に捉えるキッチンを覗いて軽く落胆。
そして追い打ちの様に耳に響く彼の声音での浮かれたクリスマスソングの数々。
私の目には浮かれる要素皆無の無残なキッチンが映りこんでいるのだけども。
そして小さく疑問。
「・・・何をしてるんですか?」
「うわっ、」
近くの壁にその身を預けて寄りかかり、歌いながら何か分量を計っている彼に声をかけると。
どうやら私の存在に気がついていなかったらしい彼の尋常じゃない驚きと、・・・一気に空気に混じって舞った白い粉。
白く濁る視界越しに苦笑いの彼と視線が絡む。
そして無情にも床に雪の如く降り積もる小麦粉。
「お、おはようハニー、・・・ご機嫌いかが?よく眠れたかい?」
「・・・はい、」
「それは良かっー」
「寝起き一発で浮かれた鬱陶しい歌声や、胸焼けするような匂いと惨劇のキッチン。
コレを抜きにすれば最高な休日の寝起きだったわダーリン」
「鬱陶しいって・・・、今日は心踊るクリスマスだよぉ?」
「視界に捉えてる現状、私の心は踊りません」
「再婚して初のクリスマスを盛り上げようと頑張ってる俺に酷くない?」
「結果、あなたが頑張る程私が追い詰められる気がしてならないのですが?」
言いながらその身を屈め、意味を示す様に白くなった床に指先走らせ痕を残した。