夫婦ですが何か?



それでも夜に交わすような扇状さはない。


存在を確かめ愛おしむ様な口付けに、簡単に負けず嫌いな感情を鎮静され目蓋を閉じた。


それを確認したのだろう。


触れている彼の唇から『フッ』と零れる笑った時の息の音。


意味を確認しようかと目蓋を開きかけたタイミングに阻止する様に響く答え。



「童話とは逆だ。王子様のキスで目覚める筈が、千麻ちゃんは目を閉じる」


「・・・気持ち悪・・」


「酷っ、何で!?」


「いや、自分を王子に例えるナルシストぶりが」


「千麻ちゃんの王子様。間違ってないじゃない」


「・・・なんか、安っぽい自己陶酔したおとぎ話で眠くなりました」


「千麻ちゃぁん」



相変わらずなつれない反応健在で横を向くと布団に埋まった。


当然彼の哀愁漂う声音が私の名前を呼んだけれど不動を貫いて。


そうしていれば小さく息を吐く音響き、ベッドが小さく軋んで揺れた。


傷つけたか?なんて焦ったりしない。


だってすぐに・・・。


予想を描いている傍からその通り、彼の唇が再び私の頭に触れゆっくり密着する。


そしてほんの数秒に思う存分な愛情らしきものをこめて。



「おやすみ・・・」



なんて甘ったるい響きの眠りの呪い。


その効果の程は毎晩といっていい程体感しているから良くわかる。


そしてその心地よさがこうして翌朝まで持続する事で、最近は彼の寝顔を見れなくなった程。


それが少し悔しく残念なのだ。


でも、言いませんけどね。


朝の無防備なあなたの寝顔が好きなんて、


あなたが満面の笑みで喜びそうな事なんて言いませんとも。


使う時は・・・、ここぞと言うその効力抜群な時。


そんな事を考えていよいよ意識を手放そうと余計な思考をやめ始め、体に布団のぬくもりが優しく感じ始めたタイミング。



「・・・本当、捻くれて可愛いんだから」



なんだそれ?


また、図った意図的タイミングなのか、それとも私が眠ったと思って口にしたのか。


まぁ、どちらにせよ・・・。


馬鹿ね。


呆れる程バカみたいに・・・、


本当、私なんかにぞっこんなんですね。


生活を共にすればそんな馬鹿が見事移って・・・、


口の端があがる。


でも、見せませんとも。


酷く心地の良い眠りの呪いをかけられて、追い打ちの様に甘ったるい言葉。


再婚後、私はこうやって日々呆れる程の彼の甘さを身に受けて。


砂糖づけの再婚。


これだけで十分すぎる甘さよダーリン。




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