夫婦ですが何か?
ふと、溜め息をつく。
自分の前に並べた物をぼんやりと見つめて、そして思い出したように時計を見つめて心が苛立つ。
でも、いけない。
苛立つ事じゃない。
そう言い聞かすのにどうにもならない感情に更に苛立って、そんなタイミングにキュッと張る大きなお腹。
それを宥めるように柔らかく撫でてゆっくり息を吐くと目を瞑った。
緩々と張りの収まるお腹に安堵してゆっくり目蓋を開くと再び溜め息。
そして目の前に広げっぱなしだった物を一つずつ確認しながら大きなカバンに詰めていく。
入院用の荷物。
必要な物をこうして落ち度がないか頻繁に確認するように引っ張り出してはしまっていく。
そんな事を1日に1度は繰り返し、何をしているのだろうと自分でも呆れる。
そしてまた時計を見て眉根を寄せた自分に心底嫌気がさしてしまうのだ。
23時。
まだ・・・帰って来ない。
未だ未帰宅な夫に不満の感情が浮上しても、すぐにフォローするような声も自分で響かせてはいるのだ。
彼は仕事。
接待も仕事。
だから遅いのは仕方ないのだと。
なのに・・・。
自分の中の葛藤に苛まれて片手で頭を抑えながら部屋を歩き出す。
そしてオープンキッチンのカウンターの椅子に座ると崩れるようにそこに突っ伏して、モヤモヤとした感情継続で目の前の物を意味もなく捉えて不動になった。
そんな視界に入り込んだカレンダーにドキリとして、来週に当たる日付の赤丸を見つめて動悸が走る。
来週・・・、
そう、来週なのだ。
そう思いながら自分のお腹に指先を走らせた。
出産予定日まで僅か数日。
状態としてはいつ生まれてもおかしくもないし、問題もない。
問題があるとすれば・・・・。
「ただいまぁ~」
不意に耳に入り込んだ扉の開錠音と、追って響いたテンション違いの明るい声。
その温度差に思わず舌打ちをして、突っ伏した時に前に垂れ下がった髪を掻き上げながらその身を起こした。
まさにその瞬間ににこやかにリビングに浮れた笑みで入り込んできた旦那様。
正直・・・、イラつく。
「ただいまぁ~、マイハニー」
「・・・・・もうすでに玄関から聞こえてました」
「うん、でも顔見たらまた言いたくなって。【みずき】は変わりなく元気かなぁ~」
上機嫌。
特別酔っているわけではないらしくも、少しいつもよりテンション高めに私に近づいた彼がそっとお腹に手を伸ばすのをすかさず避けて見せる。
当然・・・・疑問のグリーンアイ。