夫婦ですが何か?




「あれ?何で?」


「・・・・お酒臭い人は触らないでください」


「ええ~、俺ほとんど飲んでないよ?」


「・・・煙草クサイ」


「まぁ、だって相手が煙草吸う人だったから」


「癇に障るので早々に着替えて頂けませんか?私と【みずき】に悪影響与えたいなら構いませんが」


「・・・・ん~、トゲトゲだねぇ」




分かってます。


自分でもどれだけ感じが悪いかなんて理解していて、移り香くらいで彼に当たるのはお門違いなのだ。


それでも今はすべてが私を逆なでしてきて、こんな態度でも怒るでもなく苦笑いで『ハイハイ』と寝室に向かう彼に罪悪感。


反省もするのに上手く消えきらない苛立ちに必死になっていれば、再び逆なでるように着替え終わった彼が姿を現してくる。




「着替えてきたぁ。OK?OK?」


「・・・・・遅かったですね」


「うん、接待自体は結構早く終わったんだけど・・・野暮用」


「野暮用?」


「ちょっと、雛華のところに寄って来たんだぁ」



にっこりと悪びれずに口にする彼に感情がざわめく。


いや、彼が悪いと思わなくてもいい場面なのだ。


別に悪い事は何もしていなくて、なのに敏感に逆鱗が反応して自分の意思関係なく感情が先走る。



「はぁ?!何寄り道してきてるんですか?!」


「いや、・・・ちょっと雛華のところに物を取りに・・・」


「そんなの明日でもいいでしょう!?出産間近な私を気にもかけずに寄り道ですか!?」


「まぁ、色々と思うとこあって・・・」


「つまりあなたはもしかしたら今まさに陣痛に襲われてるかもしれないって言う心配もなく気遣いもなく、自分の欲の為に寄り道してきたって事ですね」


「ん~、なんか怒ってる・・ね」


「怒ってません!!」


「ほらほらぁ、そんな興奮しないで。ママが怒ってたら【みずき】も驚いて怯えちゃうよ?」



あっ・・・・。


冷水。





決して彼が怒りあらわにそれを口にしたんじゃない。


どちらかと言えば困ったように『仕方ないなぁ』と言いたげに微笑んで諭した柔らかい物。


なのに今の私には大きく突き刺さった指摘に思わずグッと口を閉ざして下を向く。


たった一言で激しく攻め立てられたような気分に陥って、今まで憤っていた感情が一気に被害妄想。


その感情明確に潤う目に焦ってしまう。


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