夫婦ですが何か?
Side 茜
どんなに仕事で疲れていようがマンションの敷地に入った瞬間から浮き足立つ。
思わず上がってしまった口の端を、同じマンションの住人を捉えて咄嗟に隠した。
だって、一人でにやけながら歩いてたらいくら顔が良くても変態だろう。
そんなナルシストっぽい、勿論誰が聞くわけでもないけど冗談めいた思考を頭に描いた瞬間に、同じくして脳裏に浮かんだ不快を示す表情の彼女。
『気色悪い』
そんな響きすら聞こえそうな姿に苦笑いを浮かべて、鼻歌でも歌ってしまいそうな勢いでエレベーターに乗り込んだ。
壁に寄りかかりながら上昇する数字を見つめて、今日はどんな夕飯だろうかと予想する。
昨日が和食だったから、一昨日は中華だったし今日は洋食かな?
そんな事を考えながら決して長くはない密室時間をやり過ごすと、ようやく浮遊感消え重い扉が風を通す。
それにニッと口元に弧を浮かべて颯爽と歩きだすと住み慣れた部屋の前に立ち鍵を開ける。
開けた瞬間にふわりと香ったそれに心浮れるも複雑な苦笑いも浮かんだ。
ああ、またきっと不満を言われながらの夕飯だと。
「ただいまぁ」
そう響かせながら廊下を抜けて煌々と明るいリビングの扉を開けば、丁度キッチンから俺を出迎えようと身を動かしていた彼女と鉢合わせ。
軽く衝撃受けた体を支えて、俺を見上げてくる姿に馬鹿みたいにキュンとする。
可愛い・・・。
これでいて俺より5つも年上だって言うんだから驚きだ。
元々小柄な彼女。
切りそろえられた前髪のせいもあってか実年齢よりかなり下に感じる童顔で。
なのに目元は大きくもきりっとした印象で、長い睫毛が印象的なそれは酷く魅力的でうっかり見惚れる。
はい、
惚気です。
何より・・・・俺の為に伸ばされ揺れる髪。
今日は少し高い位置で一つに纏められて、ますます若々しく感じるその姿にたまらなくなって抱きしめる。
「っ・・・可愛い~」
「・・・・帰ってきて早々ウザいんですが。そしてまず『ただいま』と言うべきでは?」
「・・・『おかえり』」
「・・・・それは私のセリフです」
「だって俺の中でここしばらく千麻ちゃんにはその感情いっぱいで、」
「・・・・『ただいま』」
そう、
戻った。
戻って・・・来てくれた。
この部屋に、俺の腕の中に。