囚われの姫


散々抱かれてぐったりした体を横たえていると、彼は私の体を軽々と浮かせて自分の腕の中に収めた。

「真里花、大丈夫か?」

「………大丈夫じゃない………」

彼にぎゅっと抱きしめられて安心するが、病み上がりとも言えないまでも退院したばかりの体に容赦なさ過ぎではないだろうか…

彼は嬉しそうに喉で笑うと、頭を撫でてきた。

「真里花が俺に聞きたかったことを何でも答えるよ。それを聞いて後悔しても逃がさないから。子供ができていたら1人で育てるのは大変だと思うぞ?」


彼は脅しているつもりなのだろうか?
こんなに幸せな脅しならいくらでもしてもらいたい。
私が目を丸くしていると、彼は"早く"とせかしてくる。


「真里花は俺に聞きたいことがあるんだろう?何でもいいから思う存分聞けばいいよ。」

「じゃあ、……私のこと、どう思ってる?私のこと本当に好き?」

彼は私の最初の質問に笑う。

「さっきあれだけ言ったのに、答えが分かってること聞いてどうするんだ?」

「……だって、なんかまだ信じられない…」

「…真理花、ありがとう。」

「……え?」

「あんなに辛い思いをさせた。護ってあげられなかった俺を、まだ望んでくれてありがとう。」

「…………大和さん。」

「許してもらおうとは思ってないし、俺はこれからも自分を許せない。それでも一緒にいたい。」

「私も許そうなんて思ってないよ。」

「………」

彼がゴクリと喉を鳴らすのが聞こえる。

「だって、大和さんは私を助けてくれたのに。大和さんは何も悪くない。私は何を許せばいいの?」

「…だから、またそんな事言う……」

彼は困ったように深くため息をついた。

「…じゃあ、私は大和さんを一生許さない。だから、許して欲しいならずっとそばにいて。そしたらいつか許してあげる。」

「………仕方ないな。恨まれるくらいずっとそばにいて付きまとってやる。」


ぎゅうぎゅうに抱きしめられ、私は幸せを感じながら眠りについた……










****
おまけ
****





私は次の日、いつも通り出勤した。

まだ顔の腫れは治っていないが昨日よりは良くなっているし、首の傷も深くはなく、縫っている訳でもない。

会社には事件に巻き込まれた事を伝えてはいたが、周囲からは好奇の眼差しを向けられやりづらい。

それをどうにか上手くかわしながら、ようやくお昼休み。

同僚に連れられいつもはあまり行かない個室のあるお店へ行く。

部屋に通されると同僚はちょっとどころかかなりお怒りモードだった。

「…怪我は大丈夫なの?痛みは?もうちょっとくらい会社休んでも良かったんじゃないの?」

「痛みはほとんどないよ。目につくところに怪我しちゃってるから大袈裟に見えるだけで、あと2、3日すれば治るし。」

「……それならいいけど…。無理はしない!絶対に!それだけはちゃんと約束してね。」

「うん。ありがとう。」

彼女には昨日のお昼に心配して電話がかかってきていてあらかた事情を説明し、彼の家に避難させて貰うことも伝えてあった。


「で、今はもう事件の方は大丈夫なの?真理花が狙われてたんでしょ?」

「…うん。とりあえず、私を狙ってた人達は捕まったから、私が狙われる事はないだろうって言われてある。でもどれくらいの組織が関与してたのかまだ把握出来てないから、念の為に落ち着くまでは彼の家に置かせてもらってる。」

「………そう。私も心配だから、その家まで送って行こうか?」

「…ううん!大丈夫だよ!」

「いいから、気にしないで。私は車通勤だから、帰るついでに送るだけだし!ね?」

同僚の強引さに驚きつつも、お言葉に甘えて今日は送ってもらうことになったのだった。






仕事が終わると、彼女と2人で車に乗る。

彼には会社を出た時と家に着いた時に必ず連絡を入れるように言われていたため、同僚に送ってもらうこともメッセージで伝える。

しばらくすると、分かった。とだけ短く返事が来た。

さっきまでは今日の仕事の愚痴を言ったりしていたところ、急に同僚は話題を変えてきた。


「………お昼は言うのやめておこうと思ってたけど、やっぱり、気に入らない。あの男はいったい何やってたの?」

「…え?」

「……どうして真理花がこんな事になってるの?あいつは何やってたの?寝てたの?仮病でも使って家にいたの?」

彼女の顔が見た事もないくらい般若の様な形相に変わっていく。

「………あの男?」

茅島(カヤシマ) 大和(ヤマト)よ!茅島 大和!」


………カヤシマ ヤマト……?

ヤマト……大和?

そう言えば、昨日はあのまま疲れて寝てしまい、大事な事を色々と聞きそびれたままだ。

まさかこんな形で彼の名字を知ることになるとは…

「……小百合(サユリ)さん、大和さんのこと知ってたの?」

「知ってるも何も、元同僚だからねー。」

「………へ?」

「言ってなかったけど、私元々刑事だったの。」

これ以上ないくらい色々な事があって、もう驚く事なんてないと思ってたのに衝撃的な事実を知ってかなり驚く。

確かに彼女は再就職枠として、私と同じ年に入社しており、年齢は5歳ほど上になる。
初めのうちは敬語だったが、仲良くなるようになってからは彼女から「敬語はやめて欲しい」と言われて、今では年齢は関係なく仲良くさせてもらっている。
前の職場の話を聞こうとすると、いつも濁していたのであまり聞かないようにしていた。彼女にも言いたくなかった事情があるのかもしれない。

「夫もかなり怒ってるのよ。"付き合ってたなら、もっと早く言っとけ!"って。」

「……ええっと、旦那さんって、もしかして…?」

「刑事なの。お互いあの職場で働いてるとなかなか2人の時間が取れなくなって。私は辞めて今の会社に就職したってわけ。」

「…そうだったんだ。」

思っていたよりあっけらかんと言われて、拍子抜けした。
言いたくないのだと思っていたのに。

「まぁ、前職が刑事ってちょっと怖がられちゃうかなって思って、言わないようにしてたんだけど、前に真理花からあいつの写真見せてもらった時には驚き過ぎてぶったまげたわよ。」

「……だから、大和さんのこと知ってるような言い方だったんだ…。全然知らなかった。」

「教えてあげようかとも思ったけど、茅島にも言いたくない理由があるのかと思って。それに私から聞くより、本人から聞いた方がいいでしょ?」

「……うん。ありがとう。」

「ちなみに夫は茅島の上司だから、今頃私の代わりにかなり搾られてんじゃない?風俗店取り締まりに行くだけで、恋人をこんな目に合わせるなんて、本当に許せない。もっと上手く出来ただろ!って一発背負い投げしてやろう。」

……小百合さん、そんなに強かったんだ…。

まさか、こんなところにも刑事さんがいたとは…

世間は狭いな…なんて思いながら彼の住むマンションへ着く。


2人で彼と小百合さんの夫が帰って来るのを待ってから、4人で近くの居酒屋へ。

彼はかなり驚いていたが、同僚との再会に嬉しそうにしていた。
小百合さんから本当に容赦なく背負い投げされていたが、慣れているようである。
何だかんだいいながらも小百合さんと旦那さんに手柄のお祝いをされる彼の姿を見て、いっきに彼と近づけた気がする。

2人でいる以外の姿を見れて彼の違う一面を知ることが出来た。



「そういう訳で、今回の事は本当に申し訳ありません。」

旦那さんからも謝罪を受ける。

「…あの、頭を上げてください。事情聴取の時にも散々謝罪されて、もう十分ですから。」

退院した日にも、そのまま事情聴取を受けており、その際にもう嫌という程謝罪されて本当に十分だった。

旦那さんにも、これからも茅島を宜しく頼むと言われて、ほっとした。
父親が犯罪を犯している私を嫌な目で見られるのではないかと思っていたのだ。

居酒屋を出て、2人で彼の家に帰る。

何だか不思議な気分だった。

「……真理花、引越しのことなんだけど…,,」

「…?」

「……ここじゃ2人だと狭いし、もう少し広い部屋探しに行こうと思ってるんだけど、あと子供が増えてもいいように。」

「………!」

「…まさか、1人でここ出ていこうとか考えてないよな?」


囚われてしまった。

でも、ここはとても居心地がいい。


私の唯一の願いは叶ったのだった。













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