ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
男三人の中心で、私はやっと立ち上がる。
お尻をパタパタ叩き、スーツのシワを伸ばして、
彼らに言った。
「私は、スパイではありません。
この会議室を片付けにきて、たまたま聞いてしまっただけです。
まだどこの開発チームにも属していないので、ご安心を。
三国主任は、それをご存知のはずだと思ったのですが?」
三国主任は肉付きの良い頬をさすりながら、
「そうだったね」
と言ってくれた。
彼は私と同じ庶務課の上司だから、会話する機会がたくさんある。
『庶務はビールの製造販売とあまり関わりないけど、
田丸さんもその内、どこかのチームでビール開発にたずさわることになるよ……』
そんな会話をしたのは、つい最近の気がする。
これでスパイ疑惑は晴れた。
「や〜ゴメンね。
お詫びに今度、デートしよっか?」
営業部チャラ男の堂浦さんが、馴れ馴れしく私の肩を抱いてきた。