ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
会議室へ向かう集団とすれ違うのが何となく心苦しくて、
回れ右した私は、いつもの階段ではなく非常階段へ向かった。
鉄の扉を押し開け中に入り、静かにドアを閉めた。
同じ屋内でも、非常階段は廊下より寒い。
コートの衿を寄せて、ハーフブーツのヒールをコツコツ鳴らし、階段を上る。
寒いから今晩のメニューは、お鍋にしようかと考えていた。
冷蔵庫の中身を、思い出す。
長ネギ、椎茸、大根。
鶏肉と豆腐、それから……
頭に流れていく平和な食材達は、
豆腐でストップしてしまった。
意識が鍋から強制的に引き戻され、非常階段の上へと向けられた。
今いる場所は、4階。
更に上の階から、話し声が聞こえてくるのだ。
「こんな場所にお呼び立てして、
すみません……」
若い女性の声が謝っていた。
聞いたことのある声だが、顔が浮かばない。
多分、庶務の人間でも同期の子でもないと思う。
私と余り関わりのない女子社員なのだろう。