ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
4階の踊り場で立ち止まり、困ってしまった。
声は近い。
きっと5階の踊り場での会話だ。
非常階段に誰かを呼び出すということは、他人に聞かれたくない話なのだと思う。
5階に行きたいけど、このまま上って行くのはマズイ気がする。
仕方なく4階フロアに一度出て、
別階段を使う事にした。
鉄のドアノブに手を掛けて……
それを開けることは出来ずに固まってしまった。
呼び出したことを謝る女子社員に返答しているのは、良く知っている声。
「別に構わない。早く用件を言え」
淡々としたその口調。
低く艶のある声。
それは、久遠さんの声だった。
瞬時に頭に浮かんだのは、
今朝、由香から言われた脅しのような忠告。
『他の女子社員に絶対狙われて――ヌルイ恋愛していると盗られちゃうから――』
あの時は非現実的だと思ったことが、これから起きようとしていた。