ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
 


寒い非常階段で、私は一人、
冷汗を流す。



お願い断って!

心の中で、そんなワガママな願いを叫んでいた。



久遠さんの声が聞こえた。


答えはたった一言、

「断る」だった。



迷いは一切なく、即答だ。



深い安堵のため息を吐き出す私だが、安心するのはまだ早い。



女子社員は諦めずに、食らいついてきた。




「ふたり切りの食事が嫌でしたら、お互いの友人も一緒で構いませんから!」



「悪いが、他を当たってくれ」



「待って下さい!

一度くらいチャンスをくれてもいいじゃないですか!


それとも、あの噂は本当なのですか?

久遠さんは、庶務課の田丸夏美さんと付き合っているのですか?」




ホッとしたばかりの心臓が、またドクドクと忙しく働き始めた。



社内で噂になっているらしい私達の関係を、久遠さんがどう答えるのか……。



聞きたいようで、怖いから聞きたくない。


聞きたくないようで、気になるから聞きたい。



私達の関係に甘さはないと自覚していながらも、

もしかしたらと期待する気持ちもあった。



< 240 / 453 >

この作品をシェア

pagetop