ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
寒い非常階段で、私は一人、
冷汗を流す。
お願い断って!
心の中で、そんなワガママな願いを叫んでいた。
久遠さんの声が聞こえた。
答えはたった一言、
「断る」だった。
迷いは一切なく、即答だ。
深い安堵のため息を吐き出す私だが、安心するのはまだ早い。
女子社員は諦めずに、食らいついてきた。
「ふたり切りの食事が嫌でしたら、お互いの友人も一緒で構いませんから!」
「悪いが、他を当たってくれ」
「待って下さい!
一度くらいチャンスをくれてもいいじゃないですか!
それとも、あの噂は本当なのですか?
久遠さんは、庶務課の田丸夏美さんと付き合っているのですか?」
ホッとしたばかりの心臓が、またドクドクと忙しく働き始めた。
社内で噂になっているらしい私達の関係を、久遠さんがどう答えるのか……。
聞きたいようで、怖いから聞きたくない。
聞きたくないようで、気になるから聞きたい。
私達の関係に甘さはないと自覚していながらも、
もしかしたらと期待する気持ちもあった。