ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
今度は即答ではなく、久遠さんが返事をするまで間があった。
私はつい、耳をそばだててしまう。
5、6秒して聞こえてきたのは、
「付き合っていない」
という、乾いた台詞だった。
私達は付き合っていない。
確かにその通りだ。
恋人として同居を許して貰ったわけじゃないと、ちゃんと分かっている。
分かっているはずなのに、彼の口からハッキリ言われてしまうと、
傷ついてしまう自分がいた。
階上の様子は見えなくても、女子社員の喜んでいる気配が伝わってきた。
「やっぱり田丸さんは、彼女じゃないんですね!
そうだと思ってました!
だったら、私と食事くらいしてくれても――」
しつこい食事の誘いに久遠さんがどうするのか、
最後まで聞く余裕はなかった。
4階フロアに続く鉄の扉を開けて、音を立てないよう気をつけて閉めた。
そのまま別の階段で一階まで下り、一人で会社を後にした。