ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
涙顔のまま無理して笑顔を作り、
久遠さんを安心させようとした。
「ギリギリ間に合いました。
久遠さん、ありがとうございます……」
「そうか」と、いつもと同じ淡泊な返事をされたけど、
久遠さんの横顔には、微かな安堵の色が見てとれた。
私の無事を確認した後、久遠さんは蔑む視線を卑怯者に向け、追い詰め始めた。
「お前の身元は割れている。
RED'sビール社員の黒川雅史。
今年の4月に、製造研究室から営業部に移動させられたそうだな。
理由は、入社以来これといった研究成果を上げられなかったこと。
研究室から追い出される形での営業部に移動とは、哀れだな」
真夜中の客室に、久遠さんの低く澄んだ声がよく響いた。
卑怯者の名前は、片岡ではなく、黒川というらしい。
この短時間で名前だけでなくRED'sビールの人間であることや、
所属部署に移動履歴、その理由まで調べ上げたとは、
どうやったのか分からないけど、
驚くばかりだ。