ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
思えば、このビールの話を立ち聞きしてしまったのが、そもそもの始まりで。
あの頃は、婚約するとは夢にも思わなかった。
ビールを眺めて、一年も経っていないあの日を懐かしく思い出していた。
クツクツ煮えるすき焼きと、良く冷えた新ビール夏美。
私の向かいには当たり前のように久遠さんがいて、
愛情への不安が消えた今は、幸せしか感じなかった。
どっぷりと幸福感に浸り、グラスを合わせて乾杯しようとした時、
ピンポンとインターホンが突然の来客を知らせた。
久遠さんはジッとインターホンを見つめ、私は首を傾げた。
配送業者やセールスマンなら、外の集合玄関から部屋番号を押して呼び出すはず。
でも今鳴ったのは、この部屋のドア横にあるチャイムを直接押した音。
マンションの住人以外は、集合玄関のオートロックの扉に阻まれ勝手に入れない。
ということは、マンション住人が訪ねてきたのか?
お隣りさんとも交流がなく、思い当たる人物はいないけど。