ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
唇が離れても、久遠さんは私の体を離さない。
無言で数秒、ジッと私を見つめてから、こう聞いてきた。
「本当に、俺と一緒にアメリカに行ってくれるのか?」
「はい!」
「夏美……ありがとう」
久遠さんがホッとした顔して、柔らかく笑った。
私の嘘は、彼を自由にしてあげるための嘘だけど、
その笑顔に後ろめたい気持ちになり、白衣の胸に額を付けて俯いた。
視界に入ったのは、足元に落ちている一枚の名刺。
久遠さんが丸椅子にファイルを投げ置いた時に、隙間から滑り落ちたものだと思う。
“Mikako.Olivia.Collins"
美果子さんの名刺には、研究所のアドレス、連絡先の他に、
手書きで短いメッセージが添えられていた。
“Please……"
お願い……と。
久遠さんは、美果子さんの名刺を持ち歩いていたんだ。
やっぱり、研究所に戻りたかったんだね……。