ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
 


紙の上端に指をかける。

ゆっくりと裂いて、何度も裂いて、細かな紙片にする。



それを10階のベランダから、空に放った。



白い紙吹雪が夏の太陽を浴びて、
キラキラ輝き消えて行った。



その時、見上げる空に小さな機影が走った。


ハッとしたけど、久遠さんの乗った飛行機じゃないのは明らか。


国際線はこんな所を飛ばないし、
高度も低すぎる。


きっと、国内線の中型機が、羽田に向かう途中なのだろう。



その飛行機が飛び去った後、空には白い線状の雲が残った。



真っ白な飛行機雲に、白衣の久遠さんの姿を映した。




「どんなに難しい研究だって、久遠さんならきっと成功させられるよ……。

頑張って……。

頑張れ……頑張れ、久遠さんっ!!」




飛行機雲に向けエールを送る私の目からは、それまで堪えていた涙が、せきを切ったように溢れ出した。



もう、作り笑顔は必要ない。


顔をくしゃくしゃにして嗚咽を漏らして泣きながら、

「頑張れ!」
と、空に向けて叫び続けた。



私にはもう、遠くから応援するしか出来ないから……。




――――……




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