ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
出勤の支度を済ませ、
写真の中の存在になってしまったミカコさんに「行ってきます」と声をかけて、アパートを出る。
ゴミ出し中の隣の奥さんに、「おはようございます」と挨拶すると、
「おはよう。夏美ちゃん、今日もお仕事頑張ってね」
そんな返事と笑顔が返ってきた。
東京のマンション暮らしでは、隣人の顔さえ知らなかったけど、
田舎は引っ越して来てすぐに、近所付き合いが始まった。
こういう素朴な温かさは好き。
一人暮らしでも、孤独を感じない。
私には、この町が似合っていると思う。
バス停でバスを待っている間も、いつもの顔なじみの乗客が、
「今日も暑いね〜」
と、話し掛けてくれる。
バスの吊り革に掴まり、すっかり見慣れた車窓の景色を眺めた。
住宅地を抜けると、景色は急に田園に変わる。
7月の今、田んぼは緑一色で、
山裾まで広がる絨毯が目に気持ち良い。