ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
工場長の入院以外は、一日が変わらずに過ぎて行った。
お昼は職場の仲間達と平和にお弁当を食べ、午後はPC入力や伝票書き、電話応対。
そんなものを急ぐわけではなく、のんびりこなす。
午後2時。
若干の眠気を堪えて仕事をしていると、外線電話が鳴った。
受話器を取ったのは、隣の机の先輩事務員、吉本さん。
「はい、カントリー麦酒醸造所でございます。
あ、川原田さんですか?いつもお世話になっています。
ええ……ええ……まぁ、うふふ。
わかりました〜。田丸を行かせますね。
はい、失礼致します〜」
受話器を置いた吉本さんは、意味ありげな視線を私に向けた。
「夏美ちゃん、川原田さんからだよ?うふふ〜」
“川原田さん"とは、この近くのホップ畑の農家さん。
うちの会社がホップを買い付けている農家は地元農家ばかりで、その中の一軒だ。
どんな用件かを吉本さんは言わないけど、
その名前と「うふふ」という笑い方で、全てが分かってしまう。
いつもの“アレ"だと……。