ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
つい溜息をもらしてしまう私に、吉本さんは言う。
「川原田さんの息子さん、中々の男前だと私は思うよ?」
「そう思うのでしたら、今日は吉本さんが行って下さいよ……」
「ダメダメ!向こうは夏美ちゃんをご指名なんだから!
私は旦那も子供もいるし、恋愛対象にされても困るしね〜なんて、うふふ!」
ホップ農家の川原田さんからは、月に4、5回、こうして電話が掛かってくる。
7月の今はまだ、ホップの収穫時期ではなく、そんなに関わる必要もないのに、
『生育状況を見に来てよ』
と言われるのだ。
しかも毎回、私をご指名で。
ただの事務員の私には、ホップの生育状況も良し悪しも、何も分からない。
行っても意味がないのに行かされる理由は、川原田家の長男に気に入られてしまったから。
農家の嫁不足は深刻なのか、向こうは家族が一致団結して、あの手この手で私を呼び出してくる。
うちの工場も、お節介なお人よしが多いせいか、川原田さんの長男をガッチリ応援体勢。
この田舎町は住みやすいし、職場も働きやすくて満足しているけど、
たった一つだけ、それだけが困りごとだった。