ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
ここ数日、工場の従業員達も私達事務員も、不安の中で仕事をしていた。
午前中の事務室で、FAXで流れてきた発注書をPCに入力しながら、
隣のデスクの吉本さんとヒソヒソ話す。
「吉本さん、この工場が閉鎖になったらどうします?」
「困るわ、すっごく困るわ。
うちは、旦那もここの社員だもの。
夫婦で職を失ったら、どうやって食べていけばいいのよ」
吉本さんの旦那さんは、工場の方で品質管理責任者として働いている。
万が一、カントリー麦酒がなくなれば、もちろん私も困るけど、
子供のいる吉本さんの方が、もっと深刻な問題。
頭を抱える吉本さんが気の毒で、こう言った。
「工場長がもし辞めるとしても、後任がしっかりした人なら大丈夫ですよね!
副工場長の出来内(デキナイ)さんが後任でしょうか?」
「それは無理よ。
夏美ちゃんはまだ、出来内さんと仕事したことないのよね。
大きな声じゃ言えないけど、出来内さんって……仕事できないのよ。
後任に据えた翌日、この会社潰れちゃうわ」
「そうですか……」