ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
◇◇
それから一週間後のこと。
工場長はまだ、腰椎ヘルニアで入院中。
幸いなことに手術はせずに済み、痛みが落ち着いたらリハビリして、それから退院できるという話。
カントリー麦酒従業員一同、そのことにホッとしたのだが……。
事態は良い方向へ向かってはくれなかった。
今回の入院ですっかり自信をなくした工場長が、
「俺はもうダメだ……」
と、弱気になっているらしい。
つまり、退職したいと言い出したのだ。
63歳の工場長。
一般的なサラリーマンが60歳定年であることを考えれば、
工場長にも「長い間お疲れ様でした」と言ってあげたいところ。
でもそうはいかない。
残された私達が、途方に暮れてしまうから。
カントリー麦酒は工場長の父親、すっかりおじいちゃんになってしまった現社長が、家族経営で始めた小さな地ビールの会社。
少しずつ規模は大きくなっているとはいえ、まだ家族経営の枠からはみ出せず、
工場長がワンマン的に、何もかも取り仕切ってきた。
急に「後は任せた」と言われても、困るのだ。
しっかりした後任がいない内に、工場長が辞めることは、
会社存続の危機に繋がる。