ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
それほど広くないミーティング室に、60人ほどが立ち並ぶ。
私はその集団の、ちょうど真ん中辺りにいる。
小柄なので、埋もれて存在がなくなってしまいそう。
従業員の集合が済むと入口ドアから、駒野事務長に車椅子を押されて、社長が入ってきた。
久しぶりに見る社長は、御歳89歳。
半年前に見た時は、杖をつきながらも歩いていたのに、
今は車椅子生活になってしまったようだ。
引退したも同然の社長が久しぶりに会社に来て、何の発表をするつもりなのかと、みな心配していた。
“工場の閉鎖"
それじゃないことを、祈るばかりだ。
緊張した面持ちの私達の前で、社長はゆっくりと喋り出す。
足腰は弱っていても、その喋り方はしっかりとした印象を受けた。
「みなさん、いつもカントリー麦酒のために、日々尽力してくれてありがとう。
みなさんも知っての通り、ワシの愚息がすっかり心を弱めてしまってなぁ、退職することに決まった。
ワシはこの通りの老いぼれだ。
会社の面倒は見れんし、息子と一緒に正式に引退しようと思う。
従業員のみなさんには、大変申し訳ないことになってしまった」