ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
従業員に向け、車椅子から頭を下げる社長。
私達の間からは、残念そうな溜め息が漏れた。
工場長も、社長までも辞めてしまうということは……
やっぱりカントリー麦酒は、幕を下ろすということなのか……。
従業員一同、暗く沈んでしまった。
工場の閉鎖を予感して、諦めモード。
隣で吉本さんが、「どうしよう……」と呟いている。
私は吉本さんに何も言ってあげられず、俯いて小さな溜め息をついていた。
そんな私達に向け社長が続けて口にしたのは、思いがけない言葉だった。
「わしら創業一家は退くと決めたがの、カントリー麦酒はこれからも続くから安心しなさい。
新しい指導者の下で、新たな可能性を見つけて、より大きく成長していくことじゃろう」
ザワザワし出した従業員達。
カントリー麦酒が続くということに、ホッとして喜んでいた。
喜んだ後は“新たな指導者"が気になる。
会社を任せられるような後任が見つかったということなのか?
社長はシワだらけの顔にもっとシワを寄せて、笑って言った。
「今度の社長は、ワシが惚れ込んだ男だ。
あれほどの男は、世界広しと言えども、中々見つからん。
みな、驚くでないぞ?
若くて美男子。見た目だけじゃのうて、頭も切れる。
天才化学者と呼ばれる男だからの。
これでカントリー麦酒は安泰じゃ。
引き受けてもらえて、本当に良かった」