ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
私の前には、工場勤務の男性社員が立っている。
私より大柄な人達の隙間から、久遠さんを覗き見ていた。
私から久遠さんを見ることはできても、彼からは、私の姿が見えていないことだろう。
久遠さんは従業員全体に視線をザッと流してから、話し出した。
4年振りに聞く彼の声は、変わっていなかった。
「初めまして、久遠礼士です。
今までアメリカのカリフォルニア州にある、JSM財団研究所で研究員として勤務していましたが、
この度、カントリー麦酒の社長と縁があり、新社長を引き受けることに――。
経営方針等は、後日書面にて――。
若い私に会社運営ができるのかと心配の声もあると思いますが、仕事ぶりを見てから評価して欲しく――」
久遠さんの話を聞きながら、首を横に振り、私は「違う」と呟いた。
違う……違うの……。
私が聞きたいのは、挨拶の言葉ではないし、新しい経営方針でもない。
聞きたいのは、一つだけ。
どうしてやりたい研究を投げ出して、私のいる場所に来てしまったかということなんだよ!