ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
社長室は、廊下の奥まった場所にある。
廊下の角を二つ曲がった突き当たりの、他のドアより少しだけ立派な、木目の扉の前に立った。
気まずい……でも大丈夫。
この書類を渡して用件を伝えたら、すぐに社長室を出ればいいんだ。
自分にそう言い聞かせ、変な緊張を抱えてドアをノックした。
「どうぞ」と、聞き慣れた声がした。
久遠さんは、私の上司。
夫婦であっても、その辺りはわきまえているつもり。
「失礼します」と言ってからドアを開けて中に入り、後ろ手に扉を閉めた。
久遠さんは、社長用デスクで仕事中。
ノートPCに向かい、素早いキータッチで何かを打ち込んでいた。
デスクの左右は、書類の山。
多分、左側に詰まれた書類が未処理の物で、右側が処理済みだと思う。
左の山は後少しで、右の山はうず高く詰まれていた。
久遠さんが社長に就任してからまだ三ヶ月だが、カントリー麦酒の成長が感じられる。
今までも優良企業であったとは思うけど、業務がより効率的に働きやすくなったように思う。
後は業績が伸びていけば……といった所だが、それを感じる日も近い気がする。
久遠さんが化学者として優秀なのは言うまでもないが、
社長としての、会社運営能力も桁外れ。
久遠さんて、すごい人なんだよね……
女心は理解が足りないと思うけど。