ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
 


入ってきた私を見て、久遠さんは仕事の手を止めた。



「どうした?」と、何事もなかったかのように、極普通の調子で聞いてくる。



昨夜のことも、今朝お弁当を作らなかったことも、意識しているのは私だけ。



何だろう、この気持ち……。


私は久遠さんの奥さんなのに、
片思いしている気分になってしまう……。



小さく溜め息をついてから、デスクを回り込み、久遠さんが座っている椅子の真横に立った。



一人で拗ねて怒ってごめんなさい……そう言えたらいいのに、

可愛さの足りない私は、やっぱりムスッとしてしまう。



目を合わせずに、書類を手渡した。




「夏期事業報告書になります。

チェック後に社長のサインをお願いします。

終わりましたら取りに来ますので、事務まで連絡下さい」




ペこりと他人行儀なお辞儀をして、体の向きを変えようとしたら、

手首を掴まれた。


そのまま強引に引き寄せられ、
あ!と思った時には、おかしな体勢になっていた。



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