倦怠期です!
そして私たちは、水沢さんが持ってきた石ノ森製菓堂のケーキを、食後のデザートに食べた。
おともの飲み物は、私が年末に会社でゲットしたコーヒー。
インスタントの中で一番おいしいと評判のやつだ。

「うぅ・・・やっぱり石ノ森製菓堂のケーキって、すごくおいしい」
「おいすず、泣いてんのか?」
「感激して涙出そうだよ。水沢さん、彼女さんにありがとうって言っておいて」と言う私に、水沢さんはニマニマしながら「ラジャー」と返事をした。

「水沢のカノジョって、大学生だよな?」
「ああ。俺より1つ下だから今4年。もうすぐ卒業だ」
「彼女さん、就職決まったの?」
「決まったよ。割と大手の商社の事務」
「ふーん」
「カノジョとは上手くいってんだな」
「まーなぁ。二人とも大学生だった頃に比べると、会える時間は激減したし、今年はあっちが就職すれば、またすれ違う時間が増えるだろうから、試練はまだ続く」
「あぁ、それ分かるわー」
「最初は社会人と学生の違いから、価値観みたいなのがずれてくる」
「社会人になれば、世界がそれだけ広がるからな。別れるか、結婚を考えるようになるか。大きな分かれ道に立たされる」
「水沢さん、彼女さんと結婚考えてるの?」
「正直今は、俺もあっちもそこまで考えてない。俺も就職して、もうすぐやっと丸1年だし、23で結婚するには若すぎる」と言う水沢さんに、私は「そうだよね」と同意した。

「急にどうしたんだよ、有澤」
「いや・・・実はさ、神戸行ったとき、つき合ってた彼女に会ったんだ」
「・・・え」
「ほっほーぅ。あっちから連絡来たのか?」
「俺の友だちから、俺が神戸に行くって聞いて・・・だからまぁ、そうだな。あっちが泊まらせてもらってた友だちんとこに来て、一緒に初詣行った」
「そっか。でも有澤さん、遠距離になるから彼女さんと別れたんだよね?だからお互い嫌いになって別れたんじゃないもんね」

と私は言いながら、元カノさんと会ったと有澤さん本人が言ったことに、私の心はショックを受けていた。

なんで私、動揺してるんだろう。

「そうなんだよなー。ま、でも久しぶりに会ったことで、お互いスッキリした」
「・・・スッキリした、の?」
「ああ。確かに嫌いになって別れてないねんけどな、俺、こっちに来てから一度もあいつと連絡取り合ってなかった。別れたなら当たり前やろ、言われたらそれまでなんだが・・。週末通い合って会おうなんて、お互い思わへんかったよなあってあいつから言われて、俺、“あ、そうや!”て発見した。つまりは、お互い未練なく恋愛感情なくなってんなーって、あいつに再会して気づいたわけや」
「だから“お互いスッキリした”」
「そ。あいつとはこれからもいい友だちでいると思う。とは言っても、頻繁に連絡取り合うことは、今までも、これからもない。偶然でも起こらん限り、あいつとは会わんと思う。やっぱ俺、遠距離ダメ。物理的に距離が離れてるのもあかんし、近くにいながら心の距離が遠いのもいかん」
「いかんって?」
「ダメって意味」
「その場合、いかんって言うより、もう別れてるようなものだろ」
「そうよ!」

と言いながら、心の中にモヤモヤと渦巻いていた動揺が、消えていくのを実感していた私は、ケーキを一口パクッと食べた。

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