倦怠期です!
「じゃ・・有澤さんの好きな人って・・・わた、し?」
「他に誰がおるねん、鈍感」
「また!鈍感って言った・・・」

有澤さんの顔がやけに近いと思ってたら、キスされた。

「俺がおまえのこと好き言うんは、社内の大方の人が知っとるで」
「・・・ええっ!!」
「俺、結構おまえにアプローチしてたつもりだが・・・やっぱおまえは鈍感だ。気づいてないのは本人だけやし」と有澤さんは言いながら、クスクス笑っている。

でも有澤さんはピタッと笑うのを止めると、キリッとした真顔で私を見た。
それがまたカッコいいと思ってドキッとして・・・。
でもこういう状況には慣れてないどころか、初めてな私にとっては、やっぱり顔が近いー!

「いい?」
「え。えっと・・・」

何が「いい?」のかよく分からないまま、とりあえず私は「うん」と言って頷いた。
すると有澤さんは私を横抱きにして、スタスタと歩きだした。

「えっ!?ちょ・・ありさわさんっ!どこ行くの?」
「ベッド」
「わわ、わたし、重いか・・・ぎゃっ!」

私がベッドに落とされたのと同時に、「うを~!ぎっくり腰きたぁ~!!」という有澤さんの声が、上から聞こえた。

「ええっ?ちょっと、大丈夫?重たい私なんかを担ぐから・・・」
「なーんてなっ」
「・・・もうっ!」と私は言うと、クスクス笑いながら、上にいる有澤さんの肩あたりをポカポカ叩いた。

有澤さんは私に叩かれるまま、ニマニマ笑っている。
でも有澤さんのギャグのおかげで、私の緊張はかなり和らいだからか、その場は和やかな雰囲気になった。

と思ったら、不意に有澤さんがまた真顔になった。
つられるように私は、笑うのと有澤さんを叩くのを止める。

「香世子」

・・・家族以外の人に、初めて名前で呼ばれた。
しかもその人が有澤さんだったことが、なぜか嬉しかった私は、泣きそうな顔で微笑むと、手を置いていた有澤さんの鎖骨あたりをなぞるように、そっと撫でた。

有澤さんの顔が近づいてくる。
キス、するんだよね?
で、でも心の準備ができてない!

「ドアッ!じゃなくて、ふすま、閉めて。それから、リビングの電気も消さないと。電気代もったいない・・・」
「そーだな」

有澤さんは私から退くと、私の言ったとおりにしてくれた。
薄暗くなった部屋に、有澤さんのシルエットがボーっと見える。
心の準備はまだ万端とは言えないけど、今度は近づいてきた有澤さんを遮ることなく・・・キスを歓迎した。

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