倦怠期です!
その週の土曜日、私は「絶対付き添う」と言い張った有澤さんと一緒に産婦人科へ行って、妊娠7週目だと確認できた。
赤ちゃんの心音を聴いた有澤さんは、私の手をギューッと握って、静かに泣いていた。

先に泣かれた私は、泣くタイミングを逃した・・・。



「・・・以上です。他に伝達事項はありますか?」と朝礼の司会をしている仙崎さんが言うと、有澤さんが「はい!」と言って手を上げた。

そして有澤さんは、前へ出るため歩いている途中で、私の手をむんずと掴んだ。
だから私も一緒に歩くことになって・・・。

「ね。ちょっと何・・・」
「えー。俺・・僕と鈴木さんは結婚します」
「じ・・・」

そんなこと、いきなり朝礼の時に言う!?
呆れたのと驚きで、有澤さんのキリッとした横顔を見る私とは対照的に、産業部の人たちはみな口々に「おめでとう!」と言っている。

「入籍だけして式挙げないので、ここでご報告する形になってすみません」
「まだ二人とも若いもんねぇ」
「それとこいつ、妊娠してて・・」
「ちょ、ちょっと仁・・・」
「まだ体調優れないんです。だからこいつの前でタバコを吸わないよう、特に冷熱のみなさんはご協力お願いしまーす!」と有澤さんが言うと、深々と頭を下げた。

倉本さんの「まぁまぁ!」という弾む声や、部長や課長たちの「おめでとう!」の声、そしてみなさんの拍手が・・・温かくて、嬉しくて。感激。

私、妊娠してから涙もろくなった気がする。
今もまた泣いてるし。
と思いながら、私は「よろしく、おねがいします」と言うと、繋いでいる有澤さんの手をギュッと握りながら、一緒に頭を下げた。

こうして私・鈴木香世子と有澤仁一郎は、1994年1月26日に「でき入籍」した。


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