倦怠期です!
「どうした、香世子」
「う・・・うっ、あの・・・・・・」
「だから、沈黙長い言うとるや・・・」
「で、きた・・・かも」
「・・・は?なにが」

私は思いきって有澤さんの顔を見ると「妊娠してる・・・かも」と言った。

有澤さんは呆然とした顔で、私と私のおなかを交互に見ている。
黙って。無言で。

「何よ、この沈黙は!自分だって・・・」
「ほんまか?できたんかっ」
「・・・分かんない。まだ病院行ってないもん。でも検査薬は陽性で、生理も遅れて・・・まだ来ない。あの・・・ごめん。ごめん・・ね」
「なんで謝るだよ」と有澤さんは言うと、倒れかけた私を、しっかり抱きとめてくれた。

「なんや・・それでおまえ、最近ずっと体調優れんかったんやな。俺・・・安心したけど、まだ心配や」
「ごめんね」
「だからなんで謝る言うてるやろ」
「だ、だって、避妊してたのに・・・」
「でもできてもうたな」と言った有澤さんの声は弾んでいる。

「香世子」
「はい・・・」
「俺たちの子、産んでくれるよな?」
「もっ、もちろん!私、生むよ?でも仁・・・いいの?」
「いいも何も・・・俺、人生で二番目に最高の出来事に遭遇したわ」
「・・・なんで二番目?一番目は?」
「一番のベストオブベストは、おまえと出会ったことに決まっとるやろーが。あ、てことはー、おまえが彼女になってくれたことが二番目やからー、俺たちの子どもができたいうんは三番目やな」

フラフラしている私は、有澤さんにしがみつきながら、二人顔を見合わせてクスクス笑った。
そして私は笑いながら、泣いていた。

「香世子、結婚しような」

泣いてる私は、「う・・」と唸るような返事をして、コクコク頷いた。

「予定も順番もめっちゃ狂ってしもうたが、俺、いつかはおまえにプロポーズしようと思ってた。まだ指輪も買ってへんし、タハラの応接室でプロポーズとかロマンの欠片も全然なくて・・・そこ、ごめんなっ」
「これも結構ロマンチックだよ。でも、指輪買うなら、その分生活費にあてようよ」
「うわ、現実的。だが・・・そやな。指輪はいつか買う。俺、まだ新米でそんなに稼ぎもないけど、おまえと子どもを路頭に迷わすようなことは、絶対せん」

そう有澤さんが言うのなら、きっとそうなのだろうと、私は心から信じることができた。


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