倦怠期です!
「じゃー、券きてからいつ行くか決めよう。今度はビックリ企画無し。おまえの都合もちゃんと考慮する。おまえはそっちの方がいいってこと、忘れてた」

そこまで言われちゃ、断ることなんてできないじゃないの。

「・・・うん」
「金のことは心配するな。俺、おまえを贅沢させる程稼ぐことは、まだできてないけど」
「そんなこと望んでないもん。ただ・・・」
「ただ、なに」

結婚当初は、赤ちゃんの日香里を育てながら、夫一人の稼ぎでその月をどうしのごうかと頭を悩ませ、水道代が500円減ったと言っては喜んで。
でも夫が昇進してお給料がアップしていくのに比例して、子どもたちも大きくなって、小さい頃のような世話をする必要もなくなって、暮らしもだんだんラクになっていったと思う。
経済的に、そして精神的に。
もちろん、私もパートで働いているし、子どもたちの学費もまだまだかかる年頃だから、外食や旅行は、いまだ滅多にできない贅沢なこと。
自分の服を買うことは、家族の中で4番目に優先されること。
つまり一番下の順位のまま。
夫は風邪引いたり病気で寝込むことはできるし、会社を休むことだってできるけど、私は熱があっても病気になっても、家事を休むことはできない。
・・・まあそこは、普段から完璧にこなしてるわけじゃないから、声を大にして言うべきことじゃないよね。

とにかく、結婚前に「おまえと子どもを路頭に迷わすことだけは絶対させん」と言ってくれたとおり、夫は十分稼いでくれてるし、私も贅沢を望んでいるわけじゃない。
不必要にお金がないと心配してしまうのは、ギャンブルで借金を作ったお父さんに、過去に一度、お金の無心をされたことや、常にお金のことで言い争いをしていた両親の環境下で育ったことが、多少なりとも影響してると思う。
夫もそのあたりの事情は知っているから、遊べなくて面白味の足りない現実主義者な私を一度も責めることなく、受け入れてくれている。

もう20年も。

「・・・今でも十分」
「そうか?」
「うん」
「おまえはいつも思ってることを言わずにため込むクセがあるからさ、言いたいことあれば、俺みたいに言っていいんだ」
「ホント、ないから」

・・・本当は、「松坂さんと浮気してるの」って聞こうかと思ったけど、やめた。
そんな勇気ないのが第一の理由、久しぶりに夫とたくさんおしゃべりできてるこの雰囲気を、台無しにしたくないのが第二の理由。
何より「ああそうや」ってアッサリ肯定されたらと思うと、いろんな意味で怖い。

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