倦怠期です!
というわけで、去年はオーディション止まりだった遼太郎だけど、今年はすでに1つ撮影が決まっている。
それは、遼太郎が通うことになっている高校のポスターだ。
今年から制服が変わるそうで、そのイメージキャラクターというのか、とにかく、ぜひ我が校のモデルになってほしいと、校長先生から頼まれたらしい。
なので、これはオーディションもなく、撮影までこぎつけることができた、とてもラッキーかつ、特別なケース。
しかもモデル料として、制服をタダでもらえるという、親にとってはすごく嬉しいお話でもある。

なんせ高校になると、教科書やかばんや靴や、靴下にまでお金がかかるし、交通費もかかる。
しかも、入学金や授業料は公立よりも高いから、制服代だけでも浮くのは非常に助かる。

こうして夫は仕事やジムでの筋トレ、私は家事とパート、日香里はピアノとバイト、遼太郎はモデル業と、家族みんな、それぞれのことをこなしつつ、いつもの日常を送っていた3月の終わりごろ、空き家だった右隣に、本郷さん親子が引っ越してきた。

作曲家の本郷青龍(せいりゅう)さんは、10年以上イギリスに住んでいたけど、今回、娘のマイカちゃんが日本の高校に通うことになったので、拠点を日本に移すことにしたそうだ。
44歳の青龍さんは、夫と同い年。
しかも、マイカちゃんが通う高校は遼太郎と同じと聞いて、ますます親近感が湧いてくる。

遼太郎たちが通う高校は、スポーツに力を入れていて、遼太郎はバスケで、そしてマイカちゃんは空手で推薦入学が決まった。
聞けば、マイカちゃんは、全欧空手大会のジュニア部門3年連続チャンピオンという、輝かしい記録の持ち主だそうで、その世界では、ちょっとした有名人らしい。

有名人と言えば、青龍さんって、実は世界的に有名な作曲家らしく、海外の大物歌手に曲を提供したり、「あ、この曲聞いたことある」と思うようなCMソングも数多く手がけていると、後日、日香里がはしゃぎながら教えてくれて、ビックリしてしまった。

「そんな有名人が、なぜここに、しかも我が家の隣に越してきた!?」という素朴な疑問がわいたけど、ここから東京へ通えない距離じゃないし。
それに仕事でピアノを使っている青龍さんにとって、防音効果がある壁というのと、マイカちゃんが高校に通いやすいところというのが、ここに越してきた理由みたい。

「私、仕事で東京やイギリスに行きっぱなしってことが多々あるので、時々マイカちゃんのことも気にかけてもらえると、非常に助かりますー」

と、引っ越しの挨拶に来たとき言われた青龍さんは、実はシングルファザーでもある。
マイカちゃんが3歳のときから、男手ひとりで育てつつ、その上イギリスに拠点を移したそうで。
しかも理由が「ある日ふと思い立って」って・・・。

大胆すぎじゃない?

とにかく。
青龍さんに託されなくても、そういう状況なら、マイカちゃんのことを気にかけずにはいられない。
そういう状況を抜きにしても、マイカちゃんは、私と性格が似ているところがあるし。
例えば、妙に冷めてるところとか。

でもマイカちゃんは、私よりひねくれてない。
「日本語は、書くのがいまだに苦手だから、時々教えてください」なんて言える、とても素直な子だ。
きっと日香里や遼太郎とも気が合うだろう。


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