倦怠期です!
「さっきの答えだが」
「え。なに」
「タハラに就職したおかげでおまえに出会えただけじゃなく、おまえと同じ横浜支店勤務になったから、横浜選んでよかったと思ったんだよ」
「・・・あなた、私の他に友だちいなかったんだね」
「ああそのとおり、ってなんやそれっ!」
「ぎゃー!冗談、冗談だからーっ!」

私の髪をグシャグシャにかき乱す夫の手を抑えながら、「やめてーっ」と懇願しているうち、ハタと気がついた。
夫のサルイケメン顔が、すごく間近にあるじゃない?と。

「・・・おまえ、幸せか?」
「な、何急に改まってそんな真剣な顔で、深刻に聞くのよ」

照れもあって、茶化してごまかそうと思ったけど、夫はそれを許さず、もう一度私に「幸せか?」と、真剣な顔と声で聞いてきた。

「・・・うん。幸せだよ」

と私は答えたものの、両手をグネグネよじってる。
それに、夫を安心させようと微笑んだつもりだけど、逆に泣きそうになってるし。
心臓も嫌な感じでドキンドキン鳴っている。

なんか・・・今から夫に不吉なこと言われそうで、怖い。

「俺はおまえのことずっと好きだったが、おまえは全然そういう目で俺を見てなかっただろ?」
「う・・・えぇ、まぁ・・」

なぜか肩身が狭いんですが・・・。

「それにおまえは因幡さんのことが好きだと思って・・・」
「だからそれは違うって・・・。因幡さんのことは好きだったよ?でもそれは・・・仕事上でお互いラクするために助け合う同士というか。お兄さんみたいで、仕事では戸田さんさんより頼りにしてた」
「そりゃ分かりやすいなー」と夫は言うと、フッと笑った。

そこに少しだけ、20年前、まだ同期だった頃の若い仁さんが垣間見えた気がする。
懐かしさについ私もニコッと微笑む。

「俺としては、つき合いだして徐々にお互いのことを知って、数年後に結婚しようと思っていたが・・・」
「まさか、私と結婚したこと・・・こ、後悔、して・・・」

これが「不吉なこと」だったんだ!
でも、唇をワナワナと震わせて、目に涙を浮かべた私に、夫は即「違う!」と否定してくれた。
それだけで少しホッとする。

「逆や。俺はおまえに逃げ道を与えんかった。他の男とつき合う隙も。それに俺は、ひとり暮らししたいというおまえの夢も奪った。それらのことに罪悪感を持ってないと言ったら嘘になる。おまえの人生を狂わせてしまったんじゃないかと思う時も正直ある」
「それ、どういう・・・仁さん、そういう風に思ってたの?」
「俺たちは、知り合って2年半以上経ってはいたが、つき合い出して2ヶ月後には結婚した。互いのことよく知らんまま。それは、結婚してから知っていけばいいと思っていたが・・。それにおまえは他の男を知らん。俺としては非常に嬉しいことだ。しかしなんつーか、その・・・おまえは俺しか知らんから、俺が好きと思ってるんちゃうかとか。あぁだから!男なりなんなり、他にも選択肢があるって知ってれば、おまえは・・・。でも俺は、その選択肢すら奪ってしまったんじゃないかと・・・」

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