full of love~わが君の声、君の影~

あそこに黒猫がいなかったら?
足をひきずってなかったら?
あの時間に通らなければ?
あの日休みなら?
あの日俺が迎えに行ってやれていれば?

そもそも仕事など続ける必要などなかったのでは?


新居に引っ越すとなったとき
当然仕事は辞めるものかと思った
そうしたら
『こっちの支店で採用が決まったの!』
と。
あんまり嬉しそうに言うものだから
“辞めたら”とは言えなかった

しかも社員で時間は早朝から夜勤まである交替制の職場

【一緒にいる時間がなくて・・すれ違いが続いて・・離婚】

なんて報道をしょっちゅう聞く職場にいる俺は
奥さんに家にいて欲しいと単純に思っていた

でも働きに行く彼女は楽しそうで
時折、口をついて出るグチでさえ
楽しそうだった

それでも
会えない時間が増えても
付き合う前みたいに
電話したり、メールしたり

会える時は
できるだけ話した
できるだけ触れあった



だから大丈夫だった

十分幸せだった


でも

それでも

こんなことになるなら
無理やりにでも辞めさせるんだった


もっともっと話したかった

もっともっと時間を作れば良かった


もしも・・・

後悔のネタはつきなかった
いくら悔やんでもいくら泣いても戻らないものがあるのだと・・

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