full of love~わが君の声、君の影~

沢山のフラッシュ 沢山のカメラ
無造作に突き出される沢山のマイク
そしてやはり無造作に投げつけられてくる沢山の言葉

こんなこと初めてじゃない
慣れているはずなのに
俺は改めて自分のいる世界の異様さにたじろいだ


何も言葉を発しない俺に業を煮やしたのか
スタッフが「静かにしてください!」と声を張り上げる

一瞬のうちに場が静まり返る

TVでおなじみの芸能レポーターが先頭切って俺にマイクを向ける
「噂の方のコト教えていただけますか?」

やっと我に返った俺は
ついさっきまで覚えていた原稿を頭に思い浮かべ
話しだす

完ぺきに入れたはずなのにカミカミだ

緊張していると思われレポーターたちが笑う


「そうですか!それはおめでとうございます!
 では彼女の好きな所はどこですか?結婚の決め手は?」
「好きな所は・・」
って誰のコト?

さっき俺がしゃべった原稿の人はいったい誰だ

俺が好きな彼女は・・・


また押し黙ってしまった俺にリポーターたちがざわつく
「あの・・晴喜さん・・?」

俺はそのレポーターのマイクを奪い取ると
頭をさげて言った

「スミマセン!」

< 205 / 308 >

この作品をシェア

pagetop