full of love~わが君の声、君の影~

独り俺は帰りのタクシーの中で思いだしていた
彼女の冷えた手の感触と
少し紅潮した彼女の頬を


家に入り冷蔵庫のミネラルウォーターの水をペットごと飲み
階段の上を見る

<なんとなく今日子さんの顔が見ずらい>

<寝室のドアを開けた時、またいなかったらどうしよう>

相反する気持ちが俺の中で交互に浮かぶ

階段をのぼり思いっきって寝室のドアを開ける



雲がきれたのか
2月にしては珍しく月の灯りが部屋に差し込んでいた

ベッドに座ってその人はいた

月の光に透けて浮かび上がったその姿は

やわらかなあごのラインも
うなじから背中にかけたその白さも
細く伸びた腕や指 ゆっくり組み直される脚
きれいに切りそろえた爪の先までも

間違いなく俺が<愛した>その人


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