full of love~わが君の声、君の影~

【おかえり。どうだった?】
「ああうん、大丈夫」
一通りあったことを話す
【そう良かった】
なんとなくまだ今日子さんの顔がまともに見れない。

そんな俺の心の中を見透かしたように
今日子さんは俺の顔をのぞきこんで
【手くらいは握ってあげた?】
「は?何でわかるの?」
は、しまった
【早っ。さすが小4男子にプレーボーイと言わせるだけのコトはあるわ~】
「ち、ちげーよっ!震えてたから落ち着かせてあげようと思って・・」
【ふ~ん】
「ホントだって」
【別にいいよどっちだって】
「良くないよ!俺は今日子さんひとすじだって」
【・・・・いいよもうひとすじじゃなくて】
「え?」
またそういうことを言う
でも俺もまた何も返せない

【ねえ♪久しぶりにあれしようよ♪】
今日子さんは急に明るい声で言う
「あれ?」


ベッドに並んで寝転んで俺たちは話をした

そう相変わらず他愛のない話。
どちらかが疲れて眠るまで

今日子さんがいた頃はよくやっていた

いつも決まって俺の勝ちだけれど
さすがに幽霊相手ではかないそうもない


今日子さんと俺は出会ってから付き合うまでに3年かかった
3年の間、ほとんど電話とメールだけで話した
そういつも天気の話とか咲いていた花のコトとか
そう何でもない他愛のない話

だけど色んな事に気づかされた
仕事場と独り暮らしの部屋との往復の日々で

空の青さや緑の美しさ
雨音の静けさも風の心地よさも

食べること・話すこと・笑うこと・眠ること・歌うこと・・

人の優しさ・愛しさ・思いやり

そして愛することの尊さ

当たり前だったコトが
輪郭をもち色をつけた

今の俺はそのことを忘れてしまっていた


「今日子さんはこの世に未練とかないの?」
【未練?】
「うん・・例えば恨みとか・・」
【ないよ】
あっさり言う
【そりゃあ・・もっと晴喜くんといたかったしさくらの成長も見たかった・・でも・・】
「でも?」
【幸せだったもの私】
「今日子さん・・」
【ホントよ。晴喜くんと会えてから・・確かに長くはなかったけど、とても幸せだった・・】
「ありがとう」
【え?】
「それ聞けてすげーホッとした・・」

ならばやはり俺がこの悲しみを断たなければならない

「俺も今日子さんに会えてすげー幸せだった・・だから・・」
泣きそうなのをこらえ懸命に笑顔を作り言う
「俺がんばるよ・・今日子さんの分までがんばる!」
【十分がんばってるよ・・】
今日子さんの手が俺の髪をなでる
なぜかこれをされると眠くなる

【幸せだった・・晴喜くんと会えて・・だから・・】
今日子さんの声がしだいに遠くなる


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