full of love~わが君の声、君の影~

「では気をつけて帰ってくださいね」
「え?」
あわてて顔を上げると彼女は背を向けてすたすたと行ってしまう。

俺はとっさに「あ、あのお礼をしたいので連絡先を教えてくれませんか?」
と背中に声をかけた。

すると足をとめて振り返ってくれた。
「いえ・・大したことしてませんから・・」
こういうときの決まり文句だ。

日頃から社交辞令慣れをしているとはいえ今度ばかりは引き下がってはいけない。

「お願いします。頼むから何かお礼をさせてください!俺が誰かわかっていますよね・・?個人情報は守りますから!」
こんなこと言って信じてもらえるだろうか?

彼女が目をふせた。

間が空いた。
ばれてる?なんて自信過剰だったろうか?

「あははは」
あれ?

「個人情報って大げさ・・あはは・・・じゃあメアドだけ。無事に帰れたか気になるからそれだけでも教えてください」
「ああ、ありがとうございます!」
「変な感染症とかだったらその時も教えてくださいよ」
「は?」
と彼女はまだくすくす笑いながら斜めがけのバックから手帳を取り出した。


そう
その時見たんだ
その彼女のバックの中の箱を
見覚えのある名前の薬の箱を

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