full of love~わが君の声、君の影~
「・・ってすごくね?」
「ん・・なにが?」
「聞いてたのかよ!俺の話!」
ここは歌番組収録のために来たTV局の楽屋。
俺は一応結構売れているロックバンドHalc(ハルク)のリードギター&ボーカル担当。
名前は田中晴喜。晴れて喜ぶではるき。おめでたい名前だとよく言われる。
「彼女、俺にはたまたま何錠か持っていたから・・なんて言って
実は買いに行ってくれていたんだよ!俺がトイレで苦しんでいる間に!
駅前だったからドラッグストアが近くにあってもおかしくない」
「なら箱ごと渡しゃあ良かったじゃん」
この熱く語る俺に反して、面倒くさそうに返してくる男は神島(かみしま)眞一(しんいち)。
同じバンドメンバーだ。
俺とダブルボーカルでベースにキーボードに作曲、最近では作詞までやるようになったマルチな奴。
神島でも眞一でも呼びにくいから皆「神(かみ)」って呼んでいる。
もう10年の付き合いになる。あれ?9年だっけか?
まあいいや。
「それをしなかったのが彼女の優しさじゃん!わっかんないかなあー!」
「へーへー」
神は雑誌から目を離さないまま適当な返事だ。
頭がきれてクールなのが奴の売りだが、どーにも昔から俺を頭からバカにしている節がある。