彼に殺されたあたしの体
近い距離にいる彼にあたしは幸せだった日々を思い出す。


彼は決してモテるタイプの人ではないけれど、とても優しい人だ。


常にあたしを大きな腕で包んでくれて、間違った道へ進もうとしたときにはしっかり怒ってくれる。


そんな、大人な人だった。


思い出すと懐かしさに胸の奥がジンッと熱を帯びた。


その時だった。


彼が「ふぅ」と、息を吐きながら立ちあがった。


少しは体力が回復したみたいだ。


立ち上がった彼はあたしを見下ろした。


その顔はひどく歪んでいて、悲しんでいるのか、怒っているのか、困っているのか。


彼女のあたしでも理解できなかった。
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