GOING UNDER(ゴーイングアンダー)
 琴子を見つけて今から一緒に帰るという連絡を美奈子から受けた真由子は、すぐさま琴子のママに琴子が見つかったことを連絡したが、その電話を切ったかと思うと、呼び出し音がまた鳴った。ナンバーディスプレーに表示された番号は、真由子と同じ大学に進学した高校時代からの友人で蓮村大介という男の携帯のナンバーだったが、電話の向こうに出たのはなぜだか知明だった。彼は電話の相手が真由子だとすぐにわかった様子で、口早に言った。

 妹の美奈子さんと、話をさせてくれないか。
 美奈子は今、出かけていないの。もう帰ってくると思うけれど。

 そう答えると、知明は言った。聞きたいことがあるんだ。30分ほどして、もう一度電話する。
 そのまま電話を切ろうとした相手を、真由子はとっさに止めた。

 待って、桜井くん。あなたの話って、ひょっとして、琴子ちゃんのこと?

 知っているのか、と、知明は、鋭い口調で問い返してきた。琴子が家出したらしいんだ。おふくろから何か聞いていないか? もしも知っていることがあれば、教えてくれないか?

 琴子ちゃんなら見つかったわよ。詳しいことは知らないけれど、美奈子は琴子ちゃんを捜しに出ていたの。小学校の運動場で見つかったって。今、一緒にこちらに向かっているわ。

 そう教えると、電話の向こうの相手は明らかにホッとした様子で、そうか、と言った。
 じゃああとで、と電話を切り上げようとする知明を、真由子は再度呼びとめた。

 ねえ、琴子ちゃんがどうしたのかを知りたいのだったら、どうしてあなたの家に連絡を入れないで、うちなんかに聞いてくるのよ。それに、無事に見つかったんだから、もういいんじゃないの? 美奈子に何の話があるの?

 おふくろはまともに話のできる相手じゃない。すぐさまそう答えたあと、知明は、ややあって言い加えた。おれもきょう、家を出たところだから連絡を入れたくない。
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