GOING UNDER(ゴーイングアンダー)
いいんじゃねーの。それについては桜井が納得してんだったらさ。
今度は蓮村がフォローを入れる。
恋愛の終わりだの始まりだのを、そんな転職するときみたいにすっぱり割りきれるやつがいたら、ある意味その方が不気味だろ。
頭越しに飛び交う姉達の会話を、美奈子はただ目を丸くして聞いているばかりだったが、蓮村のその言葉は妙に胸に残った。
自分にとってこれは、いつから始まった恋なのだろう。
電車のドアに軽くもたれた少女の立ち姿を前に、不思議な思いが美奈子の胸に湧き上がる。
思い起こせば遠い日、仔鹿のような茶色いつぶらな瞳に最初出会ったときにはもう、特別のときめきを覚えていたような気もする。
その日からもうずっと、琴子は美奈子にとってかけがえのない存在だったけれども、今はもう少し近くにいたい、手を伸ばして触れていたい。そんな風に感じている自分もいる。
あるいは、ほんの数日前の日の暮れかけた運動場で、ぽつんとブランコに腰をおろしてうつむいていた少女の、寄る辺なく揺れていたおさげの髪を見つけたあの瞬間が、消えることのない火が胸にともった瞬間だったのかもしれない。
斜めから差し込むきんいろの朝日の中で、やわらかく琴子が笑う。
ふわふわのおさげの頭に手を伸ばし、柔らかな手触りの髪をそっと撫でると、琴子はくすぐったそうな顔で少し目を細めた。
琴子の唇がかすかに動く。
列車が失速し、2人が降りる駅の名前を告げるアナウンスが車内に響く中で、ささやくような琴子の声を、美奈子ははっきりと聞き分けることができた。
「ずっと、一緒だよね」
もちろんよ。そう答えようと見返した刹那、電車が止まり、するするとドアが開く。人の流れに従ってホームに降り、歩き出しながら、美奈子は手を伸ばして隣りの琴子の手を握った。きゅっと握り返してくる琴子の手のひらのぬくもりが頼もしい。
手を繋いだままゆっくりと、人気もまばらな改札を通りぬける。
通りを横断し、コンビニの横の角を曲がって、校門までほんの6、7分。そのわずかな時間が惜しいような気がして、美奈子は歩く速度を少し落とした。
人気のない朝の道を、寄り添ってゆっくり歩く。
「久しぶりに、遅刻しちゃうね」
そう言いながら、琴子も急ぐそぶりはない。
「1年のときは、よくこの道を一緒に走ったっけ」