GOING UNDER(ゴーイングアンダー)
あのときも手をつないでいたけれども、こうやって並んで歩くのではなく、いつも美奈子が琴子の手を引いていた。姉のように。保護者のように。
琴子に対してずっと美奈子は保護者ぶってきたけれども、本当に切実に相手を必要としているのはむしろ自分の方だと、今では気づいてしまった。
どこにもいかないで、そばにいて欲しい。
ずっとこうやって手を繋いで、2人っきりで歩いていたい。
これから先琴子がもう少し強くなって、兄の知明の助力も得て、今みたいに美奈子の手を必要としなくなったとしても。
繋いだ手に知らず力がこもる。
それに気づいたのか、琴子が振り向いた。
「美奈?」
誰もいない校門を通り、門柱の陰で一度立ち止まって、琴子は美奈子の手をそっと引っ張った。
どうしたの? そう言いたげに薄明るい茶色の瞳で覗き込んでくる。
あどけないその顔は無邪気に見えるけれども、人の気持ちに敏感な琴子。
琴子のそばにいたい。
琴子とだけ、一緒にいたい。
不意に、ふわりと抱きしめられた。
美奈子の首元で柔らかなおさげが揺れ、びっくりするほどそばに近づいた顔が、小さく笑う。
「このまま教室に入るのやめて、2人でどっか行きたいね」
おとなしい琴子の発言とも思えない言葉に、美奈子の目が丸くなる。
「本気?」
「だって、美奈がそんな顔してる」
「わたし……?」
案ずるように覗き込んでくる目を、不思議な心地で美奈子は見返した。手のひらを伝って流れるように、気持ちが琴子に伝わっていたのだ。
「ええ、そうね」
素直に美奈子は頷いた。
「わたし、琴と2人きりでいたいと思ったのよ」
「うん」
それを聞いて、はにかんだように琴子が笑う。
もう少しだけ。
少女の柔らかなぬくもりをすぐそばに感じながら、美奈子は思う。
学校から逃げ出すわけにはいかないけれど、もう少しだけこうしていたい。
それでも顔を上げ、美奈子は琴子の手を引いた。
「そろそろ教室へ行こうか。もう、授業始まってるよね」
「うん」
柔らかく笑って、琴子が頷いた。
2人はしっかりと手を繋いだまま、歩き始めた。
《終》

