10回目のキスの仕方
* * *

『えぇー頑張ったじゃん!』
「意外とサクサク話が進んで良かったよ…。」

約束通りの報告の電話をしている。最初は電話ではなかったが、明季から電話がかかってきたのだった。

『いつになったの?』
「明後日の午後からだよ。」
『いよいよ初デートだね!思いっきりお洒落して、メイクもばっちり決めて行かないと。』
「うっ…それはプレッシャー…だな…頑張らないと…。」
『まぁでも、浅井サンはどんな美海でも可愛いって思ってるに違いないけどねー。』
「あ、明季ちゃん!」

そんなことは、多分ない。これは本格的に頑張らないといけないと気合を入れなおす。デートの約束だけで終わりじゃない。むしろそれは始まりなのだということを何となく感じる。

「…頑張らないと…。」
『頑張りすぎは注意だよ。知恵熱出るぞー。』
「そんなことないよ!大丈夫!でも頑張る。」
『初デート、成功しますように。』
「ありがとう、明季ちゃん。」

電話はそこで切れた。ふぅっと息を吐いて心を落ち着け、ベッドにごろんと横になる。

「…明後日、…頑張ろう。」


* * *

コール音3回で相手は出た。

『明季?どーした?』
「明後日暇?」
『…突然何?』

突然であることは自覚している。ただ、覗きは一人じゃ楽しくない。巻き込みたい人は一人しかいない。

「明季と浅井サンのデートが上手くいくか見に行きたいの、付き合って!」
『はぁ?何そんな悪趣味なことしようとしてんだよ…。』
「だって、心配なんだもん!大丈夫そうってわかったら帰る。」
『…で、それに付き合えと?』
「そう。」
『はぁ…ったくしゃーねぇな…。』
「付き合ってくれるの?」
『どうせ俺しか付き合えねーじゃん。』
「ありがとう、洋一!」

電話が終わり、思わずため息をついたのは洋一の方だった。

「…付き合って…とか、簡単に言うんじゃねーよバーカ。」
< 155 / 234 >

この作品をシェア

pagetop