10回目のキスの仕方
「お疲れさまでした!夜にすみません。」
「いや、…こっちこそ。」

いざ顔を合わせると嬉しい気持ちはあるものの、さっきの手前、恥ずかしさが勝る。階段を丁度降りたところ、ポストの前に二人で立つ。

「それで…どこ、行こうかって…相談なんだけど。」
「え、あの…いいんですか?」
「何が?」
「あの…急にお誘いしてしまって…しかも行きたいところも考えてもいないのに…。」
「まぁ、急で驚いたけど…でも今日神崎さんに会うって話してたから…何か言われたんじゃないかなって。」
「あ…えっと…まさにそう、なのですが…。」
「やっぱり。神崎さんと春姉たちは同じ匂いがする。」
「…それは…少しわかるかもしれません。」

美海は苦笑いを落とした。圭介にはどうやらお見通しのようである。

「それで、神崎さんに俺とのことを根掘り葉掘り訊かれたんじゃないの?で、余計なアドバイス付きで。」

おそらくこれは、小春や日和のことを言っているのだろうなと思うと笑みがこぼれた。そんな美海に気付いた圭介の表情も緩む。

「デートはどこ行ったとか言われた?」
「ど、どうしてわかるんですか!?」
「神崎さんは予想を裏切らないくらい春姉に似てる。」
「…な、なるほど…。」
「…水族館は、好き?」
「え?」
「店長から割引券を貰ったんだけど、一人では行かないし。でも本音としてはちょっと行きたいって思ってたから。」
「水族館…大好きです!」
「良かった。じゃあ決まり。次の休みが被った日にしようか。」
「はいっ!」

とんとん拍子で進んでいくデートの約束に、美海の頬は思い切り緩んだ。

「…ニコニコしてるけど、そんなに嬉しい?」
「えっ、あ、あの…そんなに緩んでましたか私…。」
「うん。結構…。」
「す、すみません!子どもみたいに…。」
「いいよ。謝るようなことじゃない。」

ポンといつものように軽く、圭介の手が美海の頭に乗った。その優しさがやっぱり好きで、また頬は緩む。

「じゃあ明後日。お昼は駅前で食べていって、午後から水族館でいい?」
「はいっ!楽しみです。」
「うん。俺も何気に水族館、好きだから…楽しみ。」

顔を見合わせた先には笑顔がある。その笑顔に安心して、ドキドキもする。
『おやすみなさい』が少しだけ名残惜しいような気がしてしまう、そんな夜。どうにかデートの約束をすることができた。
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