10回目のキスの仕方
* * *

「なんかふっつーに上手くいってんじゃん。」
「だね…。心配しすぎた。」
「まぁそんな感じしたけど。」
「なんか洋一の言ってることが大体合っててカチンとくるわ。」
「なんでだよ。」

 明季はふぅっと息を吐いた。自分が想像していた美海はもっと弱い存在だった。おそらくそんな美海はもういないのだろう。正確に言えば、全くいなくなってしまったわけではなくて、少しずつ自分らしくいられるようになったのだと思える。

「…ごめんね、付き合わせちゃって。」
「別に、好きで付き合ってるし。」
「もう普通に遊ぼう。美海たちは大丈夫。」
「うん。あの二人は大丈夫。」

 あの二人は、だけど。
 洋一は心の中で付け足した。世話が焼けるのは多分美海でも圭介でもなくて、目の前にいる女だ。

『好きで付き合ってる』という言葉の意味を、相手はどうとったかなんて聞かなくてもわかるし、聞いたところで虚しくなることは明白だ。

「明季。」
「んーなに?あ、アイス食べる?」
「…食べる。」

 これは本当にダメだ。全く見込みなし。

「洋一は何味?さすがにここはあたしが出す。」

 気合を入れるところはここじゃない。

「明季と同じでいいよ。」
「じゃあキャラメル二つで。」
「ありがとうございます。」

 アイスを受け取って、それを洋一に差し出す明季は何だか嬉しそうだ。

「ありがとね、洋一。」
「突然何だよ。」
「あたしの我儘と心配性に付き合ってくれて。」
「我儘に付き合うのは慣れてる。」
「え、そうなの?」
「すげーうざい姉がいるからな。女はコリゴリ。」
「でも彼女募集中じゃないの?みんなが言ってたよ?」
「みんなって誰だし。つーか募集中じゃねーし。」
「えぇ!?そうなの?」

 完全に見込みがないことがわかり、洋一は深くため息をこぼした。

「…付き合ってやんよ。我儘で心配性な誰かさんに。」
「あはは、ありがと。」
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