10回目のキスの仕方
「美海。」
「はい。」
「ケーキはどうする?」
「あ…えっと…。後で、でも…いいですか。」
「うん。」
「…先に、ちゃんと…お話ししたいなって…。」
「うん。」
そっと握られた手。ゆっくりと手を引かれて、静かに腰を下ろした。
「…圭介くん。」
「うん。」
「…楽しい話じゃ…ないんです。でも、それでも圭介くんに聞いてほしいって思ったのは…進みたいって思ったから…なんですけど…。」
「うん。」
握られた手が少し強くなった。
「一人じゃ…思い出すのも、口にするのも…勇気がいる…ので、このまま手を握っててもらっても…いい、ですか?」
「手だけで、いい?」
「え?」
「抱きしめ…ようか?」
「…泣いてしまったら、抱きしめて…ください…。」
「わかった。」
すうっと美海は息を吸った。
「…圭介くんのお家みたいな…温かいお家に…ずっと、憧れていました。私の家は…そうじゃなかった、から…。」
「そう、だったんだ。」
少し落ちたトーンに、美海の胸が苦しくなる。
「…私の母は…私が8歳の時に…いなくなりました。私と父を残して、新しくできた…好きな人と、一緒に。」
「……。」
「後から知りました。…捨てられたんだと、いうこと。」
身体が震えた。捨てられた、価値のない自分。それを思い出すことが、痛くて苦しい。ただ、怖くはなくなっていた。
「…圭介くんが夏休みに怪我をしたとき、病院に行きましたね。」
「うん。」
「あの時、あんなに震えが収まらなかったのは…。父が事故に遭った時を思い出したからなんです。」
「そっか…。」
自分に残された唯一の人がいなくなるかもしれない恐怖。目を閉じると涙が零れた。その瞬間、ぐいっと腕を引かれて温かい胸の中に閉じ込められる。とても安心できる、自分のための空間に。
「はい。」
「ケーキはどうする?」
「あ…えっと…。後で、でも…いいですか。」
「うん。」
「…先に、ちゃんと…お話ししたいなって…。」
「うん。」
そっと握られた手。ゆっくりと手を引かれて、静かに腰を下ろした。
「…圭介くん。」
「うん。」
「…楽しい話じゃ…ないんです。でも、それでも圭介くんに聞いてほしいって思ったのは…進みたいって思ったから…なんですけど…。」
「うん。」
握られた手が少し強くなった。
「一人じゃ…思い出すのも、口にするのも…勇気がいる…ので、このまま手を握っててもらっても…いい、ですか?」
「手だけで、いい?」
「え?」
「抱きしめ…ようか?」
「…泣いてしまったら、抱きしめて…ください…。」
「わかった。」
すうっと美海は息を吸った。
「…圭介くんのお家みたいな…温かいお家に…ずっと、憧れていました。私の家は…そうじゃなかった、から…。」
「そう、だったんだ。」
少し落ちたトーンに、美海の胸が苦しくなる。
「…私の母は…私が8歳の時に…いなくなりました。私と父を残して、新しくできた…好きな人と、一緒に。」
「……。」
「後から知りました。…捨てられたんだと、いうこと。」
身体が震えた。捨てられた、価値のない自分。それを思い出すことが、痛くて苦しい。ただ、怖くはなくなっていた。
「…圭介くんが夏休みに怪我をしたとき、病院に行きましたね。」
「うん。」
「あの時、あんなに震えが収まらなかったのは…。父が事故に遭った時を思い出したからなんです。」
「そっか…。」
自分に残された唯一の人がいなくなるかもしれない恐怖。目を閉じると涙が零れた。その瞬間、ぐいっと腕を引かれて温かい胸の中に閉じ込められる。とても安心できる、自分のための空間に。